企業経営に関して諸問題をサポートし、アドバイスして解決に導くことを業務としています。

鐘井 輝 経営事務所

「アメリカ小売業事情」

アメリカ小売業事情
 
中小企業診断士 鐘井 輝
 
 長引く消費不況で、今後の活路が見いだしずらいのが現在のわが国の小売業界である。わが国より数年消費市場の展開が先行するといわれる、アメリカにおける消費傾向と最新の小売業の対応について報告する。
 
 
大手チェーンストアの売上高推移 
 米国版『CHAIN STORE AGE』でアメリカ小売業’98が発表され、売上高上位チェーンストア100社が報告された。過去10年間の売上高トップ5小売業の推移を分析すると、ウオルマートに代表されるディスカウントストア業態の急成長、ウエアハウス(倉庫型)小売業の伸張、会員制ホールセールクラブ(卸、小売兼ねる)の参入と伸張がみられる。
 
 
             アメリカ・トップ5小売業の推移(売上高 単位:億ドル)

 

順位
     1987年      1992年      1997年  
会社名(主な業態) 売上
  会社名(主な業態) 売上
  会社名(主な業態) 売上
 
1
  シアーズ(GM,D)
  280
  ウオルマート(DS,WC,SC) 554
  ウオルマート(DS,WC,SC) 1180
 
2 kマート(DS)  256 kマート(DS) 377 シアーズ(GM,D) 413
3 クローガー(S,CV) 177 シアーズ(GM,D) 319 kマート(DS) 322
4
  ウオルマート(DS,WC,SC) 159
  クローガー(S,CV)
  221
  JCペニー(GM,D)
  296
 
5
  JCペニー(GM,D)
  153
  JCペニー(GM,D)
  190
  デイトンハドソン(DS,D) 278
 

 

 GM=ゼネラルマーチャンダイジングストア,D=百貨店,DS=ディスカウントストア,S,=スーパーマーケット,CV=コンビニエンスストア, WC=会員制ホールセールクラブ,SC=スーパーセンター,。
       (出所)『チェーンストアエイジ』1998/10/1,27ページ。
 
 
アメリカにおける消費傾向と小売業の対応
 アメリカにおいても1987年に株式市場崩壊の警告が発せられ、後に1990年からの景気後退(Recession)を経た結果、それまでとは異なった消費者の購買行動と小売業の対応が見られるようになった。
 
 
1.消費者の変化に対してのディスカウント業態・家電ストアの対応
 
 
 それまでの単なる品質に見合った価格のみを追求する品揃えだけでなく、消費者は総合的な購買経験(Total Shoppig Experience)を通して、小売業に対しより高い要求基準を品質面、価格面、サービス面において求めだした。ディスカウント業態1位のウオルマートと同業態2位のKマートを例にとると、ウオルマートではナショナルブランド(NB)や国内のローカルブランドのディスカウント販売を行い消費者の支持を受けたのに対し、Kマートでは低価格のプライベートブランド(PB)中心の販売で低所得層向けの店舗のイメージが形成された。また、ウオルマートではセルフサービスによるローコストオペレーションに止まらず、入り口付近へのグリーター(出迎え係り)の配置や売場ポイントへの接客デスクの設置で顧客サービスの取組が実施された。家電ストアのサーキットシティやフライズにおいても売場内ポイントに顔写真付きのスーパーバイジングデスクを設けて問題解決に力を貸すサービスにより他店との差別化を目指している。
 
 
2.所得格差拡大、中間所得層減少に伴う会員制ホールセールクラブ・総合小売業の対応
 
 全米で最も安い価格で販売するのが会員制ホールセールクラブである。安さを追求した補完的な買い物の場としての機能を持っている。サムズクラブを例にとれば会員はビジネス会員と一般会員に別れ、一般会員は5%加算した表示価格で購入することになる。配送センターを所有せずに売場自体がストックスペースを兼ねており、ウエアハウス(倉庫)方式を採用している。店内で商品はパレットに乗せたままフォークリフトで運ばれ、ビニール包装を破り店内で販売される。経費率は売上高対比12%前後に抑えられ卸価格での販売が可能となる。
 
 
 ゼネラルマーチャンダイジングストアであったJCペニーはハードラインから撤退して、ミドルからアッパーミドル(年収5万ドル~10万ドル)をターゲットするファッションのライフスタイルストアに転身し、同様にシアーズローバックも伝統的フルライン型百貨店として復活を遂げている。
 
 
 現在全米で最も注目を集め、ショッピングセンターの集客力の鍵を握るといわれているのがシアトル出身の百貨店ノードストロームである。同店の従業員のハンドブックでは、一番の目標は顧客に最上のサービスを提供することであることが明示されており、いかなる場合でも販売員自身であらゆる問題について判断しなければならないことが述べられている。販売員の給料は売上高比平均6.5%のコミッションか時給10ドルの高い方が選択できるようになっている。消費者はオーナー意識を持つ販売員と売場でやりとりを行い、時間節約の恩恵と今後の取引関係をより深めるためのサービスを受けることができる。
 
 
3.独自性を持ち、消費者に支持されている新しいタイプのスーパーマーケット
 
 
(1)スチューレオナード
 約2,000坪の飲料工場、パン工場、食肉処理工場に約1,000坪のスーパーマーケットを併設した小売業である。経営理念はルールAお客様は常に正しい!ルールBもしそれでもお客様が正しくなければルールAを読み直せ!である。ユニークさを経営方針に掲げており店舗の前に羊、ヤギ、牛、家鴨の動物園を設けている。備え付けのご意見箱には1日100通の投書があり、2日以内に返答が行われている。
 
 
(2)ホールフーズマーケット
 無害で栄養価が高く、新鮮で人工添加物を使用しない食料品を扱うスーパーマーケットである。店内やハウスオーガンに品質目標が明記されており成長ホルモン、抗生物質を一切含まず、X線照射していないことと、動物実験以外の方法で無害が証明されていることを品質の要件とする。野菜、果物の搾り立てジュースバーを店内に設けている。
 
 
(3)イーチーズ
 テイクアウト専用レストランであり、スーパーマーケットが併設されている。35人いるシェフが注文を受けてから消費者の前で素材から調理を行う。ホームミール需要に対応した本格的な料理を提供する。ジュースバー、イートインコーナーも設置されている。
 
 
わが国小売業への示唆 
 以上、アメリカの小売業は顧客ニーズに対応してダイナミックな変貌を遂げている。一方、わが国の既存小売業においても当然顧客満足の実現を目指し、その追求は行われている。しかし店ごとの顧客満足のレベルや範囲、質、量は千差万別である。そして、どこかの部分や時点で不満足が発生していると考えられるのである。人間の欲望は無限であり、顧客ニーズは移ろいやすい。今後わが国小売業が活路を見いだすためには、小売業自身が時代の背景に基づいた顧客ニーズに対応する新しい店舗コンセプトを作りだし、そのうえで新たな買い物の場を創造することも必要であることを最後に指摘しておきたい。
 
 
滋賀県中小企業情報センター「企業の窓」1998年12号執筆原稿

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